スカイ・クロラ

「世の中のほとんどの差は、直接か間接かの違いなのだ。」(森博嗣スカイ・クロラ」より)

今日は子ども向けのイベント企画で積み木遊びを。大量の積み木を使ってやったんだけど、なかなか盛況でしたよ。
僕は、子どもの様子を観察するのが好きだし、安全性の確認など全体に目を配るのが自分の役割だと思ってるから、子どもと一緒に積み木で遊びはしなかったんだけど、観察してるのも、中々面白かったですよ。
でも、今回観察して面白かったのは、大人の方かな。何人も、かなり熱中して積み木で遊んでるんですよ。子どもそっちのけで。苦笑
こういうのを見ると、一つの疑問が湧いてきます。
子どもは大人に「なる」ものなのか?
見方によっては、大人なんて体のでかい子どもかもしれないね。
さて、今日は「大人にならない子供」の話を。
読みました。森博嗣スカイ・クロラ」。
「僕は戦闘機のパイロット。飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガーも食べる。戦争がショーとして成立する世界に生み出された大人にならない子供-戦争を仕事に永遠を生きる子供たちの寓話。」(裏表紙より)
なかなか良かったです。小説の作り方が上手いなぁ、って思いましたよ。作品の主題と、文章と、世界観と、が上手く融合していると思います。
まず、印象的なのは、装飾の少ない、淡々と進んでいく文章ですね。物語の舞台に関する記述もごくわずか、人物の内面も直接にはあまり描いていない、キャラクターも没個性的ではないがあまり存在感がない。
言葉を可能な限り切りつめている、という感じですね。
これはこういう演出なんでしょうけど。
作品の主題は、おそらく、「生と死」。
淡々とした文章が作品全体に悲壮感を漂わせていて、主題をうまく演出していると思うんです。
それから、世界観。主人公が飛行機のパイロット、舞台が空、というのはいい。空の持っている、開放感、孤独感、といったイメージが、これもまた、主題にマッチしてると思います。主人公が、戦車や軍艦に乗っていたら、こうはいかなかったでしょう。
この作品は、一読して全てが理解できる、という作品ではないでしょうね。暗示的な部分が多いし、記述がシンプルな分、手がかりも少ないし。僕も正直、よく分かんない部分もある。笑
この物語全体は、「ナ・バ・テア」、「ダウン・ツ・ヘヴン」、「フラッタ・リンツ・ライフ」、「クレィドゥ・ザ・スカイ」、「スカイ・クロラ」の5部作と、それを補う短編集、「スカイ・イクリプス」から構成されているので、全てを読んでこそ分かる、ということもあるでしょう。(ちなみに、映画「スカイ・クロラ」は、小説「スカイ・クロラ」に「ナ・バ・テア」のものを加味した内容で、結末などに違いがあるらしい。僕は映画は見てないけど。)
物語の理解、という点では、作者のこのコメントは面白い。
「作品についてコメントしているブログなどが増えてきたので読みましたが、深く理解した意見のものは少ないという印象を受けました。」(「ダ・ヴィンチ」2008年8月号より。)
なかなか挑発的ですね。笑。
何を持ってこのように考えたのか分かりませんが、作者の意図と読者の受け止め方に差異があったので、理解が浅い、と考えたのなら、良い考え方とは言えませんね。読者には、自由に物語を解釈する権利がありますから。それに、色々な解釈ができる、というのは作品の深さ、とも言えますし。
この作品は特に記述を少なくして物語を構成していますから、様々な受け止め方ができるし、そこが面白いと僕は思うんですがね。
もし、作者が、「これが読者に理解されなければ絶対にダメだ」というものを持っていて、
それを理解した読者が少なかったとしたら、悪いのは読者じゃなくて、伝えきれなかった作者の力量不足、という論理も成り立つと思います。
僕はこの作者が力量不足だなんて全然思わないけどね。
ともかく、僕は中々楽しめたので、シリーズを通して読んで、それから映画も見てみようと思います。